食べ物の陰陽は柔軟に考える
正食では陰陽というモノサシを用いて、いろいろな物事や生活のあり方を考えており、もちろん食べ物にも陰陽が応用されています。しかし、毎日の食事ではそれぞれの食べ物を陰か陽かと、あまり固定的に考えないほうがよいでしょう。
例えば、野菜を20種類並べて、これは陰が強い(葉物類)、あれは陽が強い(根菜類)といっても、野菜ということから見るとすべて陰です。食べ物全体から見れば、動物性の食品が陽、野菜は陰、穀物が中庸(ちゅうよう)です。
このように野菜は陰であるため、すべて火を通したり、塩を加えて陽に近づけて食べたほうがよいです。食べ物ひとつひとつを陰か陽かと考えるのではなく、料理のときによく火を通したり、塩加減を工夫して陰陽の偏りを調和させることが大切なのです。
量と質を考えて陰陽を調和
食べ物の陰陽を調和するとき、もうひとつの大切なことは、「量は質を変える」ということです。例えば、ナスは陰が強く体を緩めるので食べてはダメというのではなく、陰だから控えめに食べましょうというふうに考えるべきです。
一般的には、よく火を通したり、陽が強いみそや塩で調理して食べるといった工夫が必要です。基本的に野菜を料理するときは、どうしたら陰を弱くするかという知恵を働かせることが大切です。全体として、陰なものには火を通して陽にする。陰陽が分からなければ、とにかく火を通し、あとは塩加減の仕方を考える。
魚の刺身とその薬味のすばらしい取り合わせ
一方、海のものと山のものを取り合わせるのも陰陽調和の基本です。海のものにはナトリウムという陽の成分が多く、山のものにはカリウムという陰の成分がたくさん含まれています。その典型的な例は、魚の刺身とその薬味の取り合わせに見ることができます。
日本近海で12~2月の寒い冬にとれる本マグロはこってりと脂が乗っていて、いろいろなマグロのなかでは最も陽です。これに対する薬味は、山奥の冷たいわき水や清流でとれる極陰のワサビ。
そして、4~5月と8~9月が旬のカツオは、脂身が少なく陽も弱いので、薬味も陰が弱い黄色のショウガ。さらに、秋の旬であるサンマには大根おろしといったように、海のものと山のものの伝統的な食べ方には、陰陽のバランスがきちんととれています。また、塩味が強いヒジキは、大豆や油揚げ、レンコンなどの山のものを加えると塩味がまるくなります。
動物性と植物性を調和させる
動物性の食品は体を温める・縮める・固めるという陽の性質が強く、また陽のナトリウムも多いため、食べ過ぎると血液が濃くなって血圧が上がるなどの症状も出てきます。
こうした動物性の食べ物を調和するには、冷やす・ゆるめる・溶かすという陰の性質と、カリウムという陰の成分を持つ香辛料や果物、ナス科の食べ物などを使って陰陽を調和させます。もっとも、本来はできるだけ中庸な穀物を食事の中心にして、野菜や海草などの副食をとるのがベストです。
私たち人間は生まれたときには、陰陽の調和した健康体だったはずなのに、成長するに従って病気になるというのは、食べ物や生活のあり方が不調和で、陰陽のどちらか一方に偏ったからです。私たちは陰陽が調和した食事を心がけるべきであり、それが「正食」というものなのです。
参考文献
- 岡田周三「正食健康法入門」
- 「正食」1998年11月号
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