忍び寄る新聞不況

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過去数十年に大きく変化したマスメディア

大学を卒業して6年間勤めたJ通信社で自分が実際に経験したこと、見て感じたこと、周りの記者たちがどこに転職していったのか-などについて述べる前に、現在のマスメディア(主に新聞)がどのような状況なのかについて触れたいと思います。

というのも、特に新聞をめぐる状況はこの20~30年の間にあまりにも大きく変わってしまったからです。大手新聞社の若い記者のなかにも、転職を考える人がいるというのは、現在の新聞が置かれている苦境を反映しているのは明らかです。

ここで、私が勤めていた通信社と新聞社の違いについて一言。新聞社は新聞という自社の媒体(読売新聞や朝日新聞など)を通じて、一般の読者に記事を配信しています。これに対し、通信社(共同通信や時事通信など)は自社の媒体を持たず、全国紙や地方紙、テレビ局、企業などに情報・記事を提供しています。そして、新聞記者は締切時間に縛られますが、それがない通信記者に求められるのは速報性。この違いを除けば、両者の仕事にそれほど大きな違いはありません。

読者の急減にあえぐ新聞各社

さて、マスメディアの現在の状況に目を向けると、なんといっても新聞の厳しい状況がすべてを端的に物語っています。畑尾一和著「新聞社崩壊」は、ほぼ大崩壊ともいえる現在の新聞の絶望的な状況についていろいろと語っています。

NHK放送文化研究所が発表する国民の生活行動に関する調査結果によれば、2005年の新聞読者は全国民の44%でしたが、10年後の2015年には33%にまで減少、今や新聞を読んでいる国民は3人に1人。

年代別に見ると、新聞を読んでいる20代が18.5%→5.5%に激減しているのをはじめ、40代も45%→22%、50代でも58%→39%と、今や国民の過半数が新聞とは無縁になっています。さらに、これから人口減少やデジタル化が加速すると、新聞の読者は2025年には2015年よりも人数で1100万人、割合では30%も減少。国民全体に占める新聞の読者率は、わすか23%に低下すると予想されています。

こうした状況を背景に、2019年には毎日新聞が約200人、産経新聞が180人規模の早期退職を募集。さらに今年(2020年)6月には、共同通信が約1600人いる正職員を2028年度までに300人程度(全職員の18%)減らして1300人台にする方針であることがわかりました。新聞社への記事配信が主な収入源である共同通信のこうした動きは、日本の新聞不況がいかに深刻であるのかをはっきりと示しています。

新聞にも古き良き時代があった

ところで、私がJ通信社の外国経済部に勤務していたとき、3年先輩のIさんは5大紙(読売・朝日・日経・毎日・産経新聞)を購読していると言っていました。「毎日そんなに読めるんですか」との質問に、Iさんいわく。「読むというよりも、新聞切り抜きのためにとっているんだ。でも、積み上がる一方だよ」。当時は私も朝日と日経をとっていました。ジャーナリズムという職業柄もあるけれど、あのころはみなさん、よく新聞を買っていましたねー。

米ニューヨーク・タイムズも決して楽ではない

一方、アメリカの状況はどうなっているのでしょうか。代表的なニューヨーク・タイムズ紙の購読者数は2011~2016年の5年間に103万部から57万部に半減しましたが、デジタル版は60万部から185万部へと3倍に伸びました。しかし、それぞれの料金を見ると、紙版は4週で6800円、デジタル版が1600円と4倍以上も違ううえ、紙版の広告収入が激減したため、トータルの売り上げは20%減、営業利益は30%減。

しかし、8月5日の同社の発表によると、今年の第2四半期(4~6月)には同紙の169年の歴史上初めて、デジタル関連収入が紙媒体の収入を上回ったという。6月末時点のデジタル版のみの購読者数は約570万人、紙媒体は80万人。

しかし、デジタル版への転換がうまくいったようにみえるニューヨーク・タイムズでも経営的にはあまり楽にはなっていないといわれます。今年4~6月の売上高も新型コロナウイルスの感染拡大で広告収入が大きく減少し、前年同月比で7.5%減となりました。もやは新聞の苦境は日本だけにとどまらず、全世界に及んでいるといっても過言ではないようです。

次回へ続く

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