年寄りは部屋が借りられない?

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高齢者に部屋を貸すリスク

持ち家と賃貸住宅の論争については前々回の記事で述べたが、それを一言でいうとその人の人生に対する価値観の違いということになるだろう。そこで今回焦点を当てるのは、われわれは年をとればとるほど賃貸物件は借りにくくなるという今の日本の現実で、これは賃貸派の人がぜひとも覚えておかなければならないことである。

これを賃貸人(ちんたいにん)である家主(やぬし、いわゆる大家)のほうから見ると、高齢者に部屋を貸すということはとてもリスクが大きいということである。具体的にいうと、一般に高齢になるまで借家に住んでいる人はそれほど経済力があるとはいえず、家主にとって賃借人(ちんしゃくにん、部屋を借りる人)の家賃の滞納は大きな頭痛の種である。

日本の法律では、家賃を払わない入居者を直ちに追い出すということが許されていない。民法では家主は金持ち、賃借人は貧乏人といった古い考えをいまだに引きずり、賃借人の権利が手厚く保護されているからである。このため入居者が家賃を滞納してもそれまでの滞納分を回収することはかなり難しく、家主がアパート経営に伴うローンなどを抱えていれば、その返済にも窮してしまう。

高齢者の孤独死がもたらす悲惨な状況

こうしたリスクもさることながら、やはり最大のリスクは「孤独死」の可能性であろう。特にだれとも付き合いのないひとり暮らしの高齢者については孤独死する確率は高く、死亡したあとかなり時間がたって発見された物件は、遺品の整理が面倒であるうえ、完全に事故物件となり、次の入居者を探すのがかなり難しくなる。

一方、高齢の入居者が孤独死しても発見が早ければ荷物などの撤去を含む原状回復の費用はそれほど多額にはならないが、それでも家族の協力がなければ、その費用はすべて家主の負担となる。そして問題をさらに複雑にしているのが、「賃借権は財産であるため、相続の対象になる」という法律の規定である。

どういうことかというと、賃貸借契約の期間中に賃借人が亡くなると、その契約は相続人に引き継がれる。そうなれば、相続人全員と契約を解約するか、または全相続人が相続放棄しないかぎり、家主はその契約を終了することができない。しかも賃貸借契約だけにとどまらず、入居者が亡くなれば、その瞬間から部屋のなかのものはすべて相続人の財産となるため、家主が勝手にそれらを処分することはできない。

こうなると家主にとっては家賃は入らない、新たな入居者は募集できない、残るのはいわばゴミ屋敷だけといった泣くに泣けない悲惨な状況となる。こんなことを一度でも経験した家主であれば、高齢者には絶対に部屋は貸さないとなるのも無理からぬことであろう。

国土交通省が平成28年(2016年)に作成した「家賃債務保証の現状」という資料によれば、家主の約60%が高齢者の入居に対して拒否感を抱いているという。とりわけ単身の高齢者の入居は難しく、60歳以上の人の入居を制限している家主は約12%に達している。

保証人の確保が最大のネック

高齢者が借家するときの最大の問題は、保証人の確保であろう。特に年齢制限のないアパートやマンションなどでも、連帯保証人をつけることはいわば絶対的な入居の条件である。それでも自分で保証人を探せる人であれば特に問題はなく、今では多くの人が家賃保証会社を利用している。

ところが高齢者の場合は、この家賃保証会社の審査が通りにくいのである。先の「家賃債務保証の現状」によれば、特に問題なく家賃保証会社の審査に通る割合は60代で50%であるが、70代になるとわずか23%に下がってしまう。こうした数字を見ても、いかに多くの家主が高齢者に部屋を貸したくないのかがよく分かる。

とはいっても、これからさらに加速化する少子高齢化と人口減少に直面する日本で、家主が高齢者に部屋を貸さないで生き残っていけるのだろうか。実際にアパートなどの空き部屋も増加しているため、「家賃が入らないよりは…」と妥協して高齢者の入居を認める家主も増えてきたようだ。さらに高齢者でも入居しやすいいわゆるシニア向け賃貸住宅も続々と出てきた。そうした物件のなかでも最もポピュラーなもののひとつは「UR賃貸住宅」であろう。

UR賃貸住宅に住んでみたら

UR賃貸住宅とは都市再生機構(UR都市機構)が管理している公的な賃貸住宅で、礼金や仲介手数料などの初期費用が不要であるほか、保証人も必要がなく、更新料もない。さらには一般の公営住宅のように抽選を勝ち抜く必要もなく、空きがあればすぐに入居できる。

筆者も都営新宿線の西大島のUR賃貸住宅に数年間断続的に住んだことがあるが、巨大な住戸棟が建ち並ぶその敷地は広々としており、そのなかには公園や保育園もあった。借りていたのは2LDKの角部屋で、家賃は月10万円。近隣の民間マンションと比べて割安だったが、エアコンや網戸などはすべて自前で設置し、数年後に退去するときはこれまた自費で処分した。

また築年数がたっているため、風呂場に換気扇はなく、各部屋も一枚ガラスだったため結露がすごかった。さらに隣にインド人の夫婦が引っ越してきたときから、ときどきものすごいカレーの臭いが入ってきた。それでも西大島駅には徒歩5分で行けるし、団地の前にはスーパーもあってかなり便利だった。100点を満点とすれば、70点はつけられる住み心地であった。

以上述べてきたように、賃貸という生活の仕方には自由に引っ越しできるというメリットもあるが、年をとればはやりそれなりのデメリットもあるので、そうした現実は一応知っておくべきであろう。

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