覚悟を決めて株式投資の出版翻訳へ

translation-of-stock-investment-books 仕事・ビジネス

墜落寸前の低空飛行

旧労働省の翻訳の仕事がなくなった2000年は、学習塾の収入だけで細々と生活していた(予備校の英語講師はすでに辞めていた)。再び実務翻訳をやろうかなどと思いながら、インターネットでそうした翻訳の仕事を探してもなかなかよいものはなく、いわば片肺飛行のような毎日を送っていた。

それでも月に1回の正食の勉強会、週末にはランニングやテニスをするなど、表面的には普通の生活を送っていた。このように、この年はガタガタと低空飛行を続けながらも、何とか墜落だけはせずに持ちこたえていた。

目の前に開けたチャンス?

年が明けた2001年も引き続きインターネットで翻訳の仕事を探していたところ、あるサイトに目がくぎ付けとなった。そこにはこう記されていた。

「商品・株式相場が分かる翻訳者を募集」

なんとタイムリーなことか。実はそのころ、私は株式だけにとどまらず、小豆(「しょうず」とも呼ばれる)の商品先物取引もやっていたのだ。ご存じのように、小豆とは和菓子を作るあんこの原料であるが、かつては「赤いダイヤ」とも呼ばれた人気の商品先物でもある。

株式投資は何十年もやってきたのだが、ついに株式だけに飽き足らず、相場の本質を極めようなどと商品先物に手を出したのだ。

わたし的には小豆先物の専門書をあさって研究し、また日本経済新聞の商品相場欄も毎日目を通していた。それでも、結果的には数年で100万円を越す損失となったのは本当に残念である。

ところで、小豆という商品先物をやってみてつくづく分かったのは、個人ではまず絶対に勝てないということ。商品先物には金属(金・銀・白金)、エネルギー(原油・ガソリン・天然ガス)、穀物(大豆・とうもろこし・小豆)などがある。

そのなかでなぜ小豆を選んだのかというと、金属やエネルギー、大豆などの国際商品は、海外の生産・輸出入の状況や為替相場などによって値動きがあまりにも大きく複雑で、とても太刀打ちはできない。そこで国内商品の小豆に手を出したというわけだ。

小豆の値段を決めるのは、主産地である北海道十勝地方の天候。しかし、そうした天候に加えて、国産小豆の生産・消費の情報をすべてにぎっているのがホクレンと呼ばれる北海道の農業協同組合連合会である。

言ってみれば、個人投資家とホクレンの小豆の情報格差は0:100であり、どう考えても個人の勝ち目は0%に近い。

採用された喜びは安いレートの前に空中分解

話がちょっとそれてしまった。さて、その「商品・株式相場」の翻訳者募集の記事を見たときは、まさに自分のような人材を求めていると思った。

その募集記事を出していたのは、商品・株式投資の専門書を出版していたP社で、私はさっそくそれに応募した。そしたらすぐにトライアルが届き、数日かけてそれを翻訳してP社に返送した。

その結果は「採用」となり、普通であれば「めでたしめでたし」となる。しかし、このときはそうはならなかった。というのは、具体的な翻訳のレートを聞いてがく然としたからだ。

これまでやってきた翻訳の原稿料は、原稿用紙(400字)1枚当たり~円というものだったが、翻訳出版では1冊当たり~円とのこと。提示された翻訳レートをこれまでの原稿料と比較したところ、あまりにも安くてぼうぜん自失。頭の整理もつかないまま、引き受け辞退のメールを送ったのである。

腹をくくって再応募

それからはまたも、翻訳の仕事探しの日々。インターネットでの検索と落胆を繰り返してほぼ半年後、ついに腹をくくった。

「誠に勝手ですが、貴社の翻訳の仕事をしたいのですが…」とのメールをP社に送り、なんとか採用された。もはや原稿料をうんぬんしている余裕はなく、「もうやるっきゃない」という生活存亡の崖っぷちに立たされていたのである。

次回へ続く

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