不動産投資の大きなリスクは事故物件化

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人気急増の不動産投資

 最近では老後の年金不足とそれによる生活の困窮を心配する30~40代の若者の間で、主にアパートやマンションを経営する不動産投資が人気となっている。書店に行けば関連書が山積みになっているほか、アマゾンなどで検索してもそれらの本が続々と表示される。そしてそうした本の99%は不動産投資のメリットだけを強調したものである。

 しかし、株式投資の勝者は参加者の2~3%といわれているように、やはり不動産投資の勝ち組もその程度であろう。また、株式投資は数十万円からでもできるが、最近のアパート経営などはいわゆる一棟買いが主流になっており、銀行からの借入額も億単位になっている。

不動産投資のさまざまなリスク

 こうした状況を踏まえて、以下では主に中古アパートの経営を念頭に置き、広い意味の不動産投資のリスクについて考えてみた。アパート経営などの不動産投資の一般的なリスクは次のようなものである。

  • 空室
  • 家賃の滞納
  • 家賃の下落
  • 物件価値の値下がり
  • 金利の上昇
  • 火災や自然災害

 アパート経営などのこうしたリスクについては広く知られているが、不動産については「瑕疵(かし)」と呼ばれる特有のリスクがある。瑕疵とは「きず」を意味する言葉で、土地や建物に何らかの難を抱えているものをいう。それらの瑕疵とは具体的に次のように分類される。

「心理的瑕疵」

  • ある部屋や同じアパート内で殺人事件や自殺があった
  • 孤独死などの自然死であっても、発見が遅れたために遺体が腐敗していた

「物理的瑕疵」

  • 地盤が歪んでいたり、沈んでいる
  • 地中に障害物や埋蔵物があったり、土壌が化学物質などで汚染されている
  • 建物の柱や土台などがシロアリに食い荒らされている
  • 壁にひび割れがあったり、床下浸水をしたことがある

「法的瑕疵」

  • 接道義務(幅4m以上の道路に敷地が2m以上接していない)を守っていない
  • 建ぺい率や容積率が法律の基準をオーバーしている
  • 開発が認められていない市街化調整区域に物件が建っている

「環境的瑕疵」

  • 近くに暴力団事務所があったり、組員が住んでいる
  • 周囲に火葬場や産業廃棄物の処理施設がある
  • 近くにゴミ屋敷のような悪臭を放つ不潔な建物がある

最大のリスクは賃借人の死亡に伴う心理的瑕疵

 こうしたいろいろな瑕疵のなかで、最も厄介なもののひとつがアパートの賃借人が亡くなった、または自殺してすぐに発見されずに時間がたってしまったような心理的瑕疵であろう。そうした事故が起こると家主のダメージはかなり大きい。

 というのも、そうした物件はいわゆる事故物件となって資産価値はガタ減りし、家賃収入が入らないうえに、売却しようとしてもその金額はかなり下落するからである。そうした物件を売ろうとすれば自殺のケースでは20~30%、殺人事件が起こったら50%程度の値下げは覚悟しなければならない。

 もっとも最近では特に東京23区などでは、「家賃さえ安ければ部屋で人が死んだくらい気にしない」という人も増えてきた。また、そうした事故物件を安く仕込み、リノベーションをして賃貸に出したり、かなりの利益を乗せた値段で売り出す投資家や不動産業者もいる。

 しかし、通常では自殺があった部屋などは家賃をかなり下げるか、またはしばらく入居の募集をしないで空室にしておくケースも少なくない。そうしたら当然のことに、その間の家主の収入は大きく落ち込む。さらに、自殺のあった部屋だけでなく、別の部屋の住人も「気持ちが悪い」などの理由で続々と退去していったら、家主のダメージは計り知れないほどになる。

 また、死亡・自殺した住人の発見が遅れた場合、部屋の悪臭を取るなどの特殊清掃も含め、その原状回復費用はかなり高額になる。その金額を自殺人の親族などに全額支払ってもらえれば、家主にとっては少しの救いにはなるが、それがかなわないと賃貸アパートの経営そのものが揺らぐほどのダメージとなる。

賃貸借契約の相続という悪しき制度

 一方、問題をさらに複雑にしているのが、賃貸借契約が相続されるという日本の古い制度である。いわゆる賃借権と呼ばれるもので、賃借人が亡くなればその相続人全員に契約を解除してもらわなければならない。しかし、自殺した賃借人のすべての相続人がその部屋が事故物件になったことに伴う損害賠償金や滞納家賃などをすんなり支払うとはほとんど考えられず、おそらく相続人全員が相続放棄の手続きをするだろう。

 こうして相続人がすべていなくなれば、死亡人の財産を清算するいわゆる相続財産管理人を選任することになるが、同管理人もボランティアではなく、契約解除の仕事を引き受けてもそれに見合った報酬が得られないと判断したら、その任務を辞任する可能性もある。そうなったら、家主はいったいだれと賃貸借契約の解除手続きを進めればよいのか。

 そんな事態になったら家主にとって、賃貸借契約は解除できない→死亡人の室内の荷物も処分できない→家賃も入らない→新しい住人も募集できない、という最悪の事態になる。これが賃借人に自殺された家主のあまりにも深刻な現実なのである。

 もちろん、こうした状況はアパート経営全体から見たらレアなケースかもしれない。とはいえ、日本の各地で実際に起こっているのは事実であり、自分がそんな事故に巻き込まれた状況を想像するとゾッとする。やはりアパート経営のような不動産投資に乗り出すには、どのような事態になってもあまり動じないタフな心が求められるのだろう。

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