大きく変わる日本の葬式の形

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母の葬式は家族葬

私の母は2015年12月に亡くなった。享年(きょうねん)95歳なので、かなり長生きしたといえる。死亡診断書には直接の死因は心不全と記されていたが、認知症のために長期にわたって病院の床についていたので、実際は老衰死であろう。

病院で亡くなったので、主治医に死亡診断書を作成してもらい、ある葬儀社に遺体を同社の安置室まで搬送してもらった。日本の法律では死後24時間以内の火葬は認められておらず、また火葬場も季節的に混んでいたので、葬儀社の安置室に母の遺体を数日間置いてもらった。12月末で気温もかなり低かったので、遺体はほとんど痛まなかった。

次は葬式の形であるが、結果として家族葬にした。「した」というよりは、以前から家族葬にしようと決めていた。

現在の日本には一般葬、家族葬、直葬(ちょくそう)という3つの葬式の形がある。一般葬とは家族や親せきをはじめ、故人の友人や会社関係者、近隣の住民など多くの人が参列し、通夜・告別式などもきちんと行ういわば伝統的な葬式である。

これに対し、家族葬とは基本的には家族や親せきなどの身内だけ、広げても個人と親しかった知人などだけを集めてこじんまりと行う小規模な葬式。2000年ごろから都市部を中心に、新しい葬式の形として広まったものである。

一方、直葬とは通夜や告別式などは一切行わず、自宅や病院から遺体を直接火葬場に運び、火葬によって弔(とむら)うものである。「密葬」「火葬式」とも言われ、基本的には身内だけが集まり、出棺のときや火葬炉の前で僧侶が読経する。

今の日本では家族葬が主流に

インターネットで調べると、今の日本で行われる葬式の約50%は一般葬、40%が家族葬、10%が直葬といわれる。しかし、私としては直葬の割合はそれに近いとしても、家族葬は60%以上を占めるのではないかと思っている。

というのも、その平均的な費用を見ると家族葬は80~150万円、一般葬は100~200万円といわれるが、東京や大都市の余裕ある家ならいざしらず、筆者が住む福島県会津のような田舎で、また都会の一般的な家庭でもたかが葬式に何百万円もかけられる家はそれほど多くはないと思うからだ。おそらく最近では家族葬どころか、直葬もかなり増えているのではないだろうか。

わが家も15人の家族葬で母を弔ったが、その費用は葬儀社への支払いが60万円(通夜・告別式に関するいろいろな経費を含む)、菩提寺へのお布施20万円、通夜の買い物・食事代15万円を含めてほぼ100万円だった。

私としては長期にわたる母の認知症に伴う経済的負担が重かったので、葬式にはあまりお金をかけずシンプルに行いたかった。本当は直葬にしたかったが、2015年当時のこの田舎の環境がそれを許さなかった。

母の葬式について葬儀社の担当者とはかなり前から相談していたが、30代の彼は直葬はもとより家族葬のこともよく知らなかった。葬儀社の葬式の知識でもこの程度であり、普通の人の知識といったら大昔のままといっても過言ではない。そんなわけで、実際には家族葬をとり行うことも難しかったのである。

田舎では家族葬も難しい

私が住む会津のK市では、家族の遺体を家に安置しようものなら隣近所の人はもとより、これらの人から話を聞いた人も続々と家に弔問(ちょうもん)に来る。こうした状況なのでたとえ葬儀社で葬式をあげても、多くの人たちが香典を持ってくるので、とても家族葬どころの話ではない。

こうなることは十分に分かっていたので、母の遺体を家に搬送することは絶対にせず、葬儀社の安置室に直接運んでそこに置かせてもらい、隣近所にも母が亡くなったことは一切言わなかった。葬式を頼んだ葬儀社もわが家から遠くにある会社を選び、母の死を知られないようにいわば秘密裏に家族葬を実行したのである。そして隣近所には母の死から数ヵ月たってから母が亡くなったことをさりげなく話した。

最近では近所のほとんどの家が家族葬を行い、故人についても知らせないので、4~5軒先の人が1年以上も前に亡くなったことを聞いてビックリすることも珍しくない。こんな田舎の人間関係も本当に都会並みになってしまった。そして今では新聞折り込みの葬儀社のチラシも、「家族葬20万円~」といったようなものばかりである。

葬式は消滅するのか

わずか6年ほど前には葬儀社の担当者は「いやー、忙しいですね。葬式を1日に2回こなすこともちょっちゅうですよ」などと話していたものだ。それが今ではどうだろう。車で近くの大手の葬儀社の前を通っても、葬式があるのは月にわずか数回だけ、現在のコロナ禍以前でも葬式はかなり減っていたように思う。

毎月届く市広報誌の裏表紙にはこのK市の2ヵ月前の出生と死亡数が記されているが、出生20~30人に対して、死亡は60~80人。死亡のほとんどは高齢者だと思われるが、毎月これだけの人が亡くなっているのに葬儀社はどこも閑散としている。故人の家では葬式などはあげていないのかなと思ってしまう。葬儀社が毎日活況を呈していた5~6年前が妙に懐かしく思えてくる。

次回へ続く

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