深刻な空き家問題は日本の住宅文化の末路

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問題の空き家はその他の住宅

日本に老人があふれつつある現在、前回の記事で見た火葬場の不足とともに、空き家の問題も深刻化している。その背景には出生数と人口の減少、三世代世帯の消滅と核家族や単身世帯の急増などがあるが、日本の住宅の歴史という観点から見ると、必然的な結末ともいえる。

2018年の総務省の調査結果によれば、日本全国の空き家は約849万戸で、住宅総数に占めるその割合(空き家率)は13.6%と過去最高になった。空き家を種類別に見たそれぞれの割合は売却用が3.5%、賃貸用51%、二次的住宅4.5%、その他の住宅が41%となっている。

売却用とは売りに出されている住宅、賃貸用とは借り手を探している入居者募集中の住宅、二次的住宅とは別荘やセカンドハウスなど、週末や休暇のときだけ利用する住宅である。これらは不動産会社や所有者が管理しているので「生きている住宅」といえる。

問題なのは四番目のその他の住宅である。これは前三者のいずれにも該当しない住宅で、売り・貸しのどちらにも出されておらず、長期にわたって人が住んでいない家である。こうした家はいわば「死んだ住宅」であり、こうした空き家が放置されるとよいことは何もなく、嫌悪すべきことばかりである。

まずは保安上の危険という点から見ると、老朽化した空き家が大きく傾いて倒壊などの危険があると、周辺の建物や通行人に危害を及ぼす恐れがある。次は有害な衛生上の危険。こうした空き家では往々にして悪臭が出ていたり、放置されたゴミに蚊やハエが集まってくる。またシロアリが発生して周辺の住宅に拡散する恐れがある。

三番目は景観を損なう危険である。建物が腐朽・破損していたり、雑草が生い茂っていると、見た目が悪いだけでなく、周辺の景観も著しく損なう。四番目は犯罪の温床になる危険である。空き家が長期にわたって放置されると、犯罪者やホームレスが侵入したり、野生動物が住み着いたりする。さらには放火されるという最悪の事態になることもある。

日本人の新築好みも空き家急増の一因

日本で空き家が急増しているのは、日本人が中古よりも新築住宅を求める傾向が強いこともその一因である。既存住宅の流通に関する2018年のデータによれば、新築住宅の供給戸数は全体の85.5%を占めるのに対し、中古住宅の流通量はわずか14.5%にすぎない。中古住宅の流通量の割合を欧米諸国と比較すると、アメリカ81%、イギリス86%、フランス70%と、日本人がいかに新築住宅を好んでいるのかがよく分かる。

こうした傾向は日本と欧米の歴史や風土の違い、それによって培われた住宅に対する意識の差も反映しているだろう。日本人の新築偏重と欧米の中古重視の傾向の背景には、日本では築年数が経つほど住宅の価値が下がるのに対し、欧米では築年数はあまり問題にならないという文化の違いがある。

日本では実際に住める年数とは関係のない木造住宅の法定耐用年数が22年であること、それを反映して「上物(うわもの)は25年でその価値がゼロになる」という不動産業界の常識も住宅に対する日本人の価値観をよく表している。

一方、急増する空き家の歯止め策として、2015年に制定された「空き家対策特別措置法」により、各市町村には放置された空き家に対する法的権限が付与された。それによれば、きちんと管理されていない家は迷惑な空き家、いわゆる「特定空き家」に指定され、最終的には強制撤去させることが可能となった。

具体的には空き家の所有者に代わって行政が強制的にその空き家を解体する「行政代執行」という措置で、解体費用は所有者に請求し、所有者がその費用を支払わないときはその資産を差し押さえる。しかし、その現状を見ると2015~2017年度に実施された行政代執行はわずか10件、そして所有者から解体費用を全額回収できたのはわずか1件にすぎない。

空き家の所有者に解体費用を支払う能力がなければ、結果的には税金でまかなうしかない。こうした行政措置でも空き家問題の根本的な解決策とはならないようだ。

それならば、空き家を売却・賃貸する可能性についてはどうだろうか。私は福島県会津のK市に住んでいるが、街中のわが家の周りも空き家だらけである。隣の酒屋は半世紀前には三世代で10人近くの家族がいたが、数年前についに空き家になってしまった。

また、道路をはさんだはす向かいの築100年ぐらいの大きな二階建ての建物は何年も前から空き家になっているが、おそらく特定空き家指定を逃れるためか、最近「売物件」の看板が立てられた。それ以外のほぼすべての空き家もいわゆるゴミ屋敷に近い状態で、とても売却や賃貸に出せる物件ではない。こうした空き家を何百万円もかけてゴミの処分とリフォームをしても、採算がとれるとはとても思えない。

更地への壁は解体費

それならば、建物を解体し更地にして売りに出す可能性についてはどうだろうか。この解決策に立ちふさがる大きな壁はなんといっても解体費である。木造戸建ての解体費用をインターネットで調べると、30坪の家で100~150万円、50坪で180~250万円となっている。おそらくこの金額は家財をすべて処分し、庭石などの撤去費、敷地の整地代などを含まない建物だけの解体費であろう。

私のいとこは裏磐梯のかなり田舎にあった実家を、2011年の東日本大震災の数年前に解体した。私はそこを何度も訪れているが、広い道路に面した家で重機も入りやすく、足場や防音シートも必要のない作業しやすい場所である。敷地は70~80坪、二階の部分が小さい40坪ほどの木造住宅で、家財などは事前にすべて撤去していた。

建物の解体、建材の廃棄、ブロック塀・庭木・庭石の撤去、敷地の整地のすべての作業を終えると、きれいな更地となった。いとこによれば、複数の解体業者に見積もりを出させたが、いずれも250万円を提示してきた。なんとか20万円ほど値切ってある業者に頼んだと言っていた。これは10年以上も前の話であり、今では建材の廃棄・処分代もかなり高騰しているため、この程度の金額ではまったく済まないだろう。

固定資産税も更地への移行をはばむ壁

そしてめでたく建物を解体して更地にしたとしても、次に立ちはだかるのが固定資産税という壁である。「住宅用地の軽減措置の特例」というものがあり、家が建っている200㎡(約60坪)までの土地については固定資産税が1/6、都市計画税が1/3に軽減されている。逆に言うと、建物を解体して更地にすると固定資産税は最大で6倍になってしまう。

私が住む会津のK市やもっと奥の田舎などでは地価が安いので、建物を解体して更地にしてもそれほど影響はないが、地価の高い大都市部などでは頭を抱える大問題であろう。建物を解体するにもお金がかかり、また更地にしても固定資産税が6倍にもなるのであれば、いっそのこと空き家のままにしておこうと考えるのも無理からぬことである。

以上のように、どの選択肢を取っても空き家の根本的な解決策とはならず、こうしている間も空き家は増え続けている。そして地方自治体にとって最悪の事態が財政破綻である。というのは、空き家率が30%を超えると財政破綻の恐れがあると言われるからだ。北海道の夕張市は2007年に財政破綻したが、そのときの空き家率は33%だったそうだ。また、2013年に財政破綻した米ミシガン州デトロイト市の空き家率も30%に迫る29.3%だった。

地方自治体にとって財政破綻という事態を避けるためにも空き家問題は喫緊の課題であるが、実際にはそのきっかけもつかめていないというのが今の日本の現状である。その意味では、火葬場不足に拍車をかける2025年問題と同じように、空き家問題も八方ふさがりの迷宮入りしたこの国の今の姿である。

次回へ続く

この記事を書いた人
人生盛々男

人生盛々男(じんせいもりもりお)
福島県会津暮らしの翻訳家&株式投資家。
まだまだ現役の硬式テニスプレイヤー兼ランナー。

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