知っていて損はない生前贈与の制度

transfer-of-property-before-death 相続

年間110万円という生前贈与の基礎控除

亡くなった人の財産を相続人に承継させる相続に対して、「生前贈与」とは文字通り生きている間に夫などが妻や子どもに財産をあげることである。その主な目的は相続財産を少しでも減らして相続税を節約することにある。

生前贈与には1年間に110万円までは課税されないという基礎控除があり、逆にそれ以上のお金を親や祖父母が子どもや孫などにくれると贈与税がかかる。このため、この基礎控除を利用して毎年贈与を続けることを「暦年贈与」という。

相続と比較した贈与のメリットとデメリット、贈与をするときの注意点などについてはおいおい述べるとして、年間110万円の基礎控除以外にもいくつかの控除や特例がある。その代表的なものが「相続時精算課税」という制度で、これを使えば60歳以上の父母や祖父母が20歳以上の子どもや孫に2500万円まで贈与しても贈与税はかからない。ただし、相続が発生したとき、この贈与額分は相続課税額にプラスされるので、いわば生前贈与の贈与税を相続のときまで先送りする制度ともいえる。

このほか、配偶者への生前贈与については2000万円までは非課税となる特例もある。ただし、婚姻期間が20年以上の夫婦間の贈与で、財産を受けた配偶者が住むための不動産を購入する資金に充てるという条件がある。

生前贈与と認められるための条件

このように生前贈与にはさまざまなメリットもあるが、その条件をよく理解して利用しないと、節税どころか損をするリスクもある。生前贈与が「贈与」として認められるには、次のことが条件となる。

  1. 財産をあげる人ともらう人の間で贈与という認識がある。いわゆる「あげる」「もらう」という合意ができている
  2. 財産をもらった人がそれを自由に管理し、使えるようになっている

親が一方的に子ども名義の銀行口座に定期的に入金しても、子どもがそのことを知らなかったり、親が口座を管理していて子どもがそのお金を自由に使えないときは、それは「名義預金」であって贈与ではないとされてしまう。

また、特に暦年贈与で注意しなければならないのは、税務署から定期的な贈与とみなされないようにすることである。毎年一定額を贈与し続けていると、税務署から「まとまった金額を贈与するという意図のもとに、節税のために毎年小分けにして贈与している」と判断され、贈与した総額に贈与税が課せられる可能性もある。

それを避けるには、贈与する時期や金額をバラバラにして一定額を定期的に贈与しているのではないことを示したり、または贈与するたびに契約書を作ったり、記録が残る銀行振り込みにすることである。

このほか、生前贈与をしてから3年以内に贈与者が亡くなると、その期間内に贈与された財産は相続財産に加算されるので注意が必要である。こうした決まりは相続時精算課税の制度にも適用される。このように生前贈与にはさまざまな条件や決まりがあるため、むしろ単純な相続のほうが有利なケースも少なくない。

生前贈与の控除や特例をまとめると次のようになる。

  1. 基礎控除は1人当たり毎年110万円まで
  2. 相続時精算課税の控除額は2500万円まで
  3. 夫婦間の贈与の非課税額は2000万円まで

これに対し、相続税の非課税額は次のようになっている。

  1. 基礎控除=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
  2. 配偶者控除は1億6000万円まで

相続税よりもかなり高い贈与税

このように生前贈与に比べて単純な相続のほうが非課税枠はかなり大きく、財産がそれほど多くなければわざわざ生前贈与を使って節税するよりは、通常の相続をしたほうが簡単かつ有利である。特に相続税の基礎控除額以下の財産しかないときは、その全額が非課税となるので生前贈与をするメリットはまったくない。

ところで、贈与税の税率は直系尊属(父母や祖父母)から20歳以上の子どもや孫に贈与するときは「軽減税率」、20歳以下の子どもや孫に贈与したり、夫婦間の贈与のときは「一般税率」が適用される。20歳以上の者への贈与に適用される軽減税率は次のようになっている。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下15%10万円
200~400万円以下20%30万円
600~1000万円以下30%90万円
1000~1500万円以下40%190万円
1500~3000万円以下45%265万円
3000~4500万円以下50%415万円
4500万円以上55%640万円

例えば、20歳以上の子どもや孫に500万円を贈与したときの贈与税は次のようになる。

基礎控除後の課税価格 500万円-110万円=390万円

贈与税額の計算 390万円×15%-10万円=48.5万円

贈与税の対象となるケース

ところで、次のようなケースでは贈与という意識がなくても贈与税の課税対象になるので気をつけなければならない。

  • 親に自分の借金を肩代わりしてもらったが、その子どもが親にお金を返済しない
  • 妻は資金を出していないのに家の名義を夫婦共有にした
  • 専業主婦が夫にお金を出してもらって高級車を買い、それを自分の名義にした

これに対し、次のような場合には贈与税の課税対象とはならない。

  • 日常生活に必要な生活費や教育費を扶養義務者(親子・夫婦・兄弟姉妹)から出してもらった
  • お金や不動産などを法人から受け取った場合は、贈与税ではなく所得税の課税対 象となる

以上見てきたように、贈与税の税率が軽減税率と一般税率の2本立てになっていたりする理由は、高齢者世代から若年者世代へ早期に財産の移転を促すという趣旨もあるという。 しかし、相続税と比べても贈与税の税率はかなり高く、また複雑で煩わしい条件や制約も多く、決して使いやすい制度とはいえない。子どもや孫に早く財産を譲渡したいという特別な理由などがない限り、生前贈与にはそれほど大きなメリットはないと思う。

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